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AIの危うさにどう備える? 中小企業が“いま”決める3つの運用ルール

AIをイメージさせるイラスト
最終更新:2025-10-10
※本記事は一般的情報の提供であり、法的助言ではありません。実際の運用は、最新の規約・契約・方針をご確認ください。

その画像、思った以上に「誰かの作品」に似ているかも

ここ最近、生成AIで動画や画像を作るハードルが一段と下がりました。

とくに話題になったのが、OpenAIの動画生成まわりのアップデートです。
招待制ではあるものの一般ユーザーの手に届きはじめ、SNS上でさまざまな作例が拡散されるようになりました。

便利さが広がる一方で、不安や議論も、同じスピードで大きくなっています。

「○○風」と指定したら髪型や配色まで寄ってしまった。
「非商用」のまま広告バナーに流用していた。
現場で起きがちなこの問題を避けるために、今日の話があります。

ここに潜むAIの危うさ ― オプトインとオプトアウトの違い

AIは早くて便利。
でも、どこからが踏み越えてはいけない線なのかが見えにくい。

そんなAIの議論で必ず出てくるのが「オプトイン」と「オプトアウト」という言葉です。

オプトインは、同意した人や作品だけを使う仕組みです。
たとえば新しいアプリを入れるときに「通知を送ってもいいですか?」と尋ねられ、
「許可する」を押した人にだけ通知が届く。これがオプトインの考え方です。

オプトアウトは、最初から使われてしまう仕組みです。
地図アプリの位置情報が初期設定でオンになっていて、イヤなら自分でオフに切り替える。これがオプトアウトです。

本来、AIの学習も「オプトイン」であるべきです。
つまり、作者が「学習に使っていいですよ」と明確に同意した作品だけを取り込むのが筋です。

しかし現実には、多くの場合「オプトアウト」に近い運用がなされています。
作者が特に同意していなくても作品は勝手に学習対象に含まれ、
拒否の意思を示して初めて除外される、これがいまのAIの危うさなのです。

日本と海外の法制度をざっくり把握

AIの学習をめぐる法制度は、国ごとに前提が少しずつ異なります。

日本では著作権法に「情報解析」という考え方があり、学習そのものについては比較的広く認められる方向です。
ただし前提として、AIが生み出す出力(生成結果)が他人の権利を侵害しないことが非常に重要になります。

一方、EUでは「テキスト・データ・マイニング(TDM)」の仕組みが整備されています。
ここでは権利者側が「使わないで」と意思表示(オプトアウト)できる道が制度として用意されています。

どちらが正しいかというより、「何を基準に、どこで線を引くか」という
設計思想が国ごとに異なる、そう理解すると整理しやすいでしょう。

係争の現在地:「白黒」が一度で決まるわけではない

制度設計の違いはあっても、「AI学習をどこまで認めるのか」はまだ世界中で答えが出ていません。

海外では、写真素材の大手とAI企業の争いなど、学習の是非や出力の扱いをめぐる訴訟が進むなど
制度だけでは整理しきれず、実際の現場ではトラブルや係争が次々と起こっているのが今の状況です。

こうした訴訟は論点が複数に分かれることが多く、
一つの判決ですべてが一気に決まるというより、テーマごとに少しずつ整理が進む、というのが現実的です。

だからこそ、企業としては「結論待ち」ではなく、
運用に入る前に「評価→合格ライン設定→運用」の順で回す必要があります。

国内動向:評価用データで「ものさし」を持つ

デジタル庁は、企業の法務実務を想定した
「日本の法令に関する多肢選択式QAデータセット」を公開しました。

ここで重要なのは、AIを導入する前に
「どの程度正しく答えられるか」を機械的に測るための「テスト問題」を用意した、という点です。

この記事の文脈に引き直せば、「オプトイン/アウトといった利用ルール」だけでなく、
「使うAIの正確さ」も同時に点検することが必要だということになります。
つまり、ルール面と性能面の二本立てで管理していくことが、現実的な安全策になるのです。

企業が「いま」決めておく3点

制度や評価だけを知っていても、現場でトラブルが起これば意味がありません。
だからこそ企業は、「いま」具体的に取り組むべき実務を押さえておく必要があります。

ここでは、そのために整理しておきたい3つのポイントを紹介します。

まず一つ目は、利用ポリシーと禁止例をはっきり書くことです。
たとえば「著名キャラクターを想起させる生成は避ける」「公開前に第三者チェックを行う」といったラインを、曖昧にせず文書で示します。

二つ目は、データの扱い方を決めることです。
使っているAIサービスが、こちらのプロンプトや生成物を再学習に使うのか、オプトアウトできるのか
このルールを把握し、案件や取引先に応じて切り替えられるようにしておきます。
まずはRAG(コンテキスト用データを都度読み込ませる手法)と、評価用データでの定期チェックを基本ラインに。
モデル自体を鍛え直すパラメトリック学習はコストや効果の読みにくさがあるため、
短期の業務活用では優先度を下げても十分戦えます。

三つ目は、もしクレームが来たときの動線を用意しておくことです。
窓口はどこか、まず非公開にするのか、差し替えるのか、
当時のプロンプトややり取りをどう記録するのか。
落ち着いて“次の一歩”を踏める経路を決めておくと、いざというときに組織が揺れません。

なお、運用開始前に社内版の小さな評価テストを作ると実務は安定します。

確認と承認の手順サンプル

公開前に、簡易でも確認と承認のプロセスを通すだけで事故は大幅に減ります。以下のステップを一通りチェックするだけでも、実務は安定します。

  1. 整理:これから何を・どの条件で作るかを記録しておきます。
    ・目的と用途:社外公開/広告配信/社内限定 など
    ・露出範囲:Web・SNS・LP・動画広告 など
    ・使用ツール/素材:生成AI名、ストック素材、フォント 等
    ・権利条件の前提:商用可/クレジット要否/オプトアウト設定の有無
    ・リスク想定と方針:既存IP想起を避ける、公開前レビュー者の設定 など
  2. 最新情報を確認: 利用規約・生成ポリシー、クライアントや社内の契約・ブランドガイドをチェックします。
    あわせて 評価用データによる事前テスト結果(正答率・誤答パターン)を残しておくと、承認判断がぶれません。
    ※社内業務に沿った10〜20問の小テストで「法令知識」「読解力」「検索力」を確認し、合格ラインを決めてから運用に進むのがおすすめです。
  3. リスク判断の基準と照合:
    【低】自社素材のみ・抽象表現・社内限定
    【中】一般的モチーフで社外公開
    【高】既存IPを想起させる(キャラクターやブランドを連想する)、広告配信、第三者素材の混在
  4. 予想されるリスクに応じて承認者を決める
    【低】担当者セルフチェック
    【中】チームリーダー承認
    【高】法務または責任者の承認
  5. 記録 作成~公開まで実際に何をしたかを残す
    ・最終版ファイル(生成物・配布物)
    ・プロンプト/モデル設定/バージョン
    ・参照元URL・取得日・ライセンス名(スクショ添付が安全)
    ・承認履歴(誰がいつOKしたか/理由)
    ・公開日時・掲載先、差し替えや修正の変更履歴

よくある質問

Q:著名キャラは一律NGでよい?
A:原則NGで運用しつつ、例外は承認フロー必須にします。
各社ポリシーや契約は変わるため、“白黒の断定”より確認と承認の手順を持っておく方が実務では効果的です。

参考文献
デジタル庁 Techブログ「日本の法令に関する多肢選択式QAデータセット公開の背景」(2025-10-09)
デジタル庁ニュース(英)「We prepared a multiple-choice question dataset …」(2025-06-02)

あとがき

便利さの前に、安心の条件を決める。
それだけで、創作も広報も一歩ずつ前に進みます。
まずは「いま使っているサービスの設定を見直す」「公開前に誰が最終確認するかを決める」。
今日決めた手順が、明日の安心と成果につながります。
運用の叩き台づくりからご一緒します。お気軽にご相談ください。

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